「『慰安婦問題』のからくり」感想その1
「日本人なら知っておきたい『慰安婦問題』のからくり」(阿部晃、夏目書房2005)を読みました。何回かに分けて感想を書きたいと思います。まず1回目です。最終的に何回になるかわかんないけど。
で。この本を読んでまず、びっくりしたのはこれです。
---一方、兵士たちにしてみれば日本から遠く離れた戦地で、毎日殺伐とした戦闘行為や軍事訓練に明け暮れていたわけで、そんな状況におかれたら、誰だって、時にはハメをはずしたくもなります。具体的にいうと、酒も呑みたくなるし女性だって抱きたくなるとうい(ママ)ことです。(19ページ)---
---遠征先で、兵隊たちの下半身をスッキリさせてやらなければならない必要性が生じたら、売春業者に戦地にまで営業に来てもらえばそれで間に合います。だから日本軍はそうしていたのです。(66ページ)---
もし仮に個人の売春が合法的だったとしても、慰安所の設置・拡大を考えたのは軍です。つまり公権力。その公権力が慰安所を設置することで、売春を公認した上、軍人にあてがい、推進したのです。「私」である業者の売春一般と同じように論じている節がありますが、当時から醜業といわれたものを、公権力が公認し、構成員にあてがい、推進したことの道義的責任はないのでしょうか。
さらに。「日本から遠く離れた戦地で、毎日殺伐とした戦闘行為や軍事訓練に明け暮れていた」ことを理由に売春を合理化する点も、不可解です。性サービス以外の方法はなかったのでしょうか。
また、「戦闘行為や軍事訓練に明け暮れ」るハメになったのは、日本自身に多大な責任があります。戦争が長期化したから余計に明け暮れるはめになったのですから。日中戦争の長期化は、上海事変(1937)後、現地の日本軍が独断で戦線を拡大し、これを陸軍中央が追認して南京へ攻め入ったのがそもそもの原因です。その南京侵攻・占領の際に起きたのが南京事件。南京事件後の近衛首相(当時)の重慶政府を「対手とせず」声明で、自ら戦争解決への道を閉ざしてしまい、戦争の泥沼化・長期化はますます避けられなくなりました。「兵士たちにしてみれば」と兵士の状況に思いを馳せるのは結構ですが、何で遠く離れた戦地で「明け暮れ」るハメに陥ったのか、時代背景にも思いを馳せるべきです。
さらにくわえるなら、南京侵攻の過程で強姦が多発したことをきっかけに、日本軍慰安所の設置が本格化し、拡大したのです。で、強姦防止のために慰安所を本格的に設置・拡大することを軍が決めた。戦争の長期化も強姦の多発も、なし崩し的で自分勝手な戦争拡大と、それを追認した政府と陸軍中央にもともとの責任があるわけで、そういう時代背景を無視して「下半身をスッキリ」なんて言葉で問題をすまそうとする論理の浅さは、目を覆うばかりです。
最後に、公共性の高い媒体=公刊された書籍で「下半身をスッキリ」なんてはばからずにいえるその神経も、ちょっとよくわかりませんね。僕には不可解です。下品ですね。「『河野談話』によって“前代未聞の好色外道民族”といういわれなき罪状を背負わされ・・・」(190ページ)などといいますが、日本人が好色外道民族と思われるとしたら、著者のような人が日本で目に見えて増えたときでしょうね。
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コメント
軍が慰安所を作った(あるいは作らせた)のは、不特定の相手との性交渉による性病の蔓延とそれによる戦力低下に悩んだためです。この理由についての部分には疑問をさしはさむ余地はないと思います。
投稿: ma | 2007年4月16日 (月) 11時33分
maさん。コメントありがとうございます。
日本軍が慰安所をつくった(あるいはつくらせた)目的の一つに、性病防止があったのは、僕も知っています。僕がこの理由に疑問を差しはさむことはありません。
ただ、目的が正しいからと言って手段が正しいとは限りません。その手段=慰安所設置が適切だったのかどうかという点を、僕は疑問視しています。
投稿: anemonefish | 2007年4月16日 (月) 12時07分
ごめんなさい。目的が正しいとかいうつもりで書いたのではないのです。引用された文を見ると慰安所は「あったっていいじゃない」といった程度のものに見えますが、そうではなくて日本軍にとって「必要不可欠」なものだったということを言いたかったのです。つまり慰安所は軍のいるところに勝手に作られたのではなく、軍が命令して作らせたものなのです。世間では「徴用を軍命令でしたか」という点だけに焦点が当たっているようですが、軍が必要としているものについて周りが動いた可能性が高いでしょう。
それでも慰安所が軍による施設であったことは間違いなく、日本政府が責任を持って取り組むべき問題だと思っています。
投稿: ma | 2007年4月18日 (水) 13時10分
失礼しました。コメントの意図を正確につかめてなかったみたいです。趣旨は了解しました・・・。お詫び申し上げます。
ところで。
僕はこの本を読んで「あったっていいじゃない」というよりも、日本から遠く離れた戦地で戦争や訓練に明け暮れていたのだから、下半身をスッキリさせてやる「必要があった」と読んでいました。この本のほかの箇所では、強姦防止や軍事機密防衛のために慰安所があったことなどを認めているので。うまく伝わらずすみません。
さて、慰安所が軍にとって必要だったという議論についてですが、僕は懐疑的です。意見を保留しています。
たとえば、本当に日本軍が慰安所以外の方法を真剣に考えたのか。現地に派遣した兵士を短期で交代させれば(たとえば1~2年)、そもそも現地で買春せず、我慢しろといえたのではないか。性病を防止するなら、なぜ軍規が厳しいはずの「皇軍」が買春をとりしまらなかったのか。などなどです。
「必要だった」という意見について、僕は強姦に対する「対症療法」としては理解しますが、「根治療法」「緩和ケア」としては機能しきらなかったし、ほかにも手段があったのではないかという可能性を念頭から捨て切れません。
>世間では「徴用を軍命令でしたか」という点だけに焦点が当たっているようですが、軍が必要としているものについて周りが動いた可能性が高いでしょう。
徴用=軍命令は、慰安所設置をめぐって日本と日本軍の免罪をしたい人たちがよく焦点を持っていきたがる論点ですけどね・・・。事実はどうだったか、僕もまだ勉強中です。
>それでも慰安所が軍による施設であったことは間違いなく、日本政府が責任を持って取り組むべき問題だと思っています。
まったく同感です。
投稿: anemonefish | 2007年4月18日 (水) 22時18分